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前回の続き、ヴァイルと主人公。また短いっす。
共に籠りが明けて『彼』から『彼女』となった友人を、ヴァイルはまじまじと見下ろした───そう、見下ろせてしまう。一ヶ月前まではほぼ同じ高さだった目線が、今は随分と離れてしまっている。
「……えーと……レハト、縮んだ?」
思わず口をついて出た、全く正直な感想を表したひとことに、籠りに入る前と寸分違わぬ彼女の面差しがひくりと引きつった。
「ヴァイルが伸びたんだようっ。そっちこそなんでそんなに大きくなってるの? 絶対僕の分の身長まで吸い取ってるだろそれ!」
「うわ、ちょっ、落ち着けって、」
いきなり地雷を踏んだらしい。サニャとローニカにも反応に困った顔されちゃったし僕だってもっとばいーんと育つもんだと思ってたのにその背丈ちょっと分けろバカ、等と涙目で捲し立てながら喧嘩している猫みたいにぽかぽか殴りかかってきた拳を咄嗟に受け止め。
(……う、わ)
ちいさい。ほそい。
拳も、手首も、片手ですっぽりと掴んで余りある程に。伝わる感触もしなやかだけれどひどく柔らかく、頼りなくて。
かつて己のそれとぴったり合わさっていた掌が、今はこんなにも小さい。
───否。
「ああっ、手もすごく大きいっ。ヴァイル変わり過ぎ! かっこいいけど。一人だけ大人になってずっるーいー。理不尽だー」
彼女はむぅと眉を寄せて言い募る。───僕は全然変わってないのに、と。
そうだ。小さくなった、訳がない。彼女は何も。何ひとつ。
変わったのは。対等に繋ぎ合えていた手をその気になれば砕き潰してしまえる程に力強く大きな手を手に入れてしまった、ヴァイルの方だ。
当たり前のことだ。性を選び長い籠りの時を経て分化を済ませた今、この身が相応の成長を遂げているのは何ら不思議のないこと。選択と変化と成長、それが大人になるということだ。
……当たり前、なのに。
何故だろう。変わらぬ彼女を前にして、自分が変わったということにひどい衝撃を感じた。
「……俺が変わったのになんでレハトは変わってないの」
「そんなの僕が聞きたい」
ふてくされた彼女の表情には、微妙な寂しさも滲んでいた。
───ひとり置いてきぼりにされた悲しさ、不安。よくわかるよレハト、俺は誰よりそれを知ってる。知ってるんだ。俺以上にそれをわかっている奴なんていやしない。ずっと、ずっとそれは俺だけの。
なあレハト、なのにどうして俺じゃなくあんたがそんな顔をしてるんだよ。
当たり前、な訳がないじゃないか。だってそういうのはいつだって俺以外のみんなで。俺はいつだってみんなの当たり前から弾かれて取り残されて。
特別とか恩寵とかもっともらしい名のついた牢獄に繋がれて惨めったらしくみんなの当たり前をひとりで眺めてるのが俺じゃなかったのか。ああひとりじゃないよな、これからはふたりでって、あんたはそう約束してくれた。
同じ印。同じ孤独。同じ渇望。俺とあんたはどこまでも同じものだ。
もしそうじゃなかったとしても。変わってしまうのは、置いてきぼりを食らわすのは、レハト。あんたの方じゃなかったのか。怒って寂しがっていいのは俺の方だった筈だろう。それなのに、どうして───
思えば予兆はあったのだ。
慣れた孤独より諦めよりもなお残酷な恐ろしい何かに己が支配される予感を、この時確かにヴァイルは感じていた。
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時系列的には一番最初。
……素直に憎悪EDで憎悪フルスロットルさせといた方が良かったんじゃねーのこれって遠い目をしてももう手遅れですね。
次はもうちょい長くできるかなー。