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前回の続き、ヴァイルと主人公。短いです。そしてまだ続きます。
明るすぎる月を憎いと思った。
遅かれ早かれ知れていた事実だとは理解していながらも。
「レハト、レハトー。……もう寝ちゃった?」
ぐったりと伏した彼女の体を揺さぶる。椅子に腰かけ片頬を卓にくっつけてすぅすぅ寝息を立てるあどけない横顔に顔を寄せれば淡い香水と酒精の匂いが鼻をついた。
完全に意識を失った彼女。起きる気配は全くないものの顔色や息遣いに異常は見られない。即席の枕と化した卓の上には、中身をかなり減らした蒸留酒の酒瓶と空の杯ふたつ。
傍から見れば───彼女本人すらも、単に泥酔して眠りこけているに過ぎないと判断するであろう状況。
その判断が誤りであると知っているのは、今のところ二人だけだ。
「しょうがないなぁレハトは。これぐらいで寝るなよなー?」
いかにも案じている風に華奢な肩を撫でさすり、唇の端を上げ、肩を震わせ、芝居がかった呼びかけを続ける───というか、三文芝居そのものだ。
何の意味もないこの茶番を最初の時から律義に続けている動機にあえて名前をつけるならば、自分への義務といったところか。欺瞞が生む自己嫌悪にあえて身を委ねることで、己の下劣極まりない所業を罰しているような錯覚を、ありもしない赦しを得るための。そんな醜悪な保身の裏には、未だに消しきれぬ弱さがある。
だから、続けずにはいられない。
茶番が不要になれば、弱さを克服してしまえば、きっと。その時はきっと、迷うことなく彼女を。
目覚めぬ彼女にひとしきり無駄な呼びかけを続け───ふっと、息を吐く。
「……下がれ」
打って変わって感情を削ぎ落とした、冷徹な大人の、男の声。そういえばこの声を彼女は『王様の声』と称していた。
ただ一言で真実を知るいま一人が潜んでいた暗がりから音もなく姿を消す。……これもしつこく繰り返されているやりとり。もう毎度毎度見張る必要などないと言っているのに一向に聞き入れようとしない。内密に薬を手配させるのに最も適した人材だったとはいえ、この仕事熱心さは近頃少し煩わしくもある。
ようやく真に二人きりになった室内で、ヴァイルは喉仏を上下に蠢かせて笑った。たった一人、全ての偽りと穢れと罪を知る顔で、笑った。
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短っ!
そして約一名が何気に不憫です。
このヴァイルさんがどういう系統に属するのかについては書いてる人もいまいち不明だったり。少なくとも電波ではないと思う。