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不定期雑記。ひとりごとやもえがたりなど。リンクフリーです。
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続きから神業パラレル設定で、タナッセと主人公。


『婚約継続するってほんとに?───ふうん、本気だったんだ。じゃあ短い付き合いになると思うけど改めてよろしく』
 衒いもなく差し出されたちいさな手の真意を推し量る余裕すらあの時の自分にはなかった。行き場なく滅茶苦茶に錯綜する感情がどんな滑稽な言い訳を口走らせたかなど思い返したくもない。
 覚えているのは、これ以上ない至近距離でぱちりと瞬いた睫毛がそれまで気づかなかったが結構長かったという愚にもつかぬ感想。そして。
 握り返した手と、その手を離さぬまま強引に引き寄せ己のそれと重ねた唇の。触れた瞬間、思わず肌が粟立った程の。
 およそ生ある者の体温とは思えぬ、氷のような冷たさだった。


「いや理由なんてどうでもいいんだ」
 狼狽え焦り建前の態すら為さぬ聞き苦しい言の葉の羅列を無駄にくどくどしく垂れ流していたタナッセの口を、聞き手の子どもは簡潔に遠慮会釈もなくばっさりと閉ざさせた。
「君が今更怖気づいたんだろうと僕に同情したがっているんだろうとそんなことはどうでもいいんだ。結果が全てだから。真価を決めるのは行動だよ。つまり君はさ、タナッセ。僕の命を救ってくれるわけだろう?」
 事典を読み上げているような口調が却って辛辣に聞こえるのも、いっそ悪意をもって糾弾してくれればと願うのも、結局タナッセの卑俗さだ。かつては額の印を、今は子ども本人の視線を、真っ直ぐ見ることもできず表情を歪める己は、子どもの目にどれほど醜く映っていることか。
 枕に背を支えられ寝台に身を起こした子どもはお世辞にも健康とは言い難い様相だった。顔色の酷さなど病的を通り越して半死人と言ってもいい。
 そして、その額には何もない。
 城中で持て囃されていた才気溢れる寵愛者がただの非力な子どもに落ちぶれた上命まで失いかけているこの現状は、紛れもなくタナッセが作り出したものだ。今は己が額に輝いている徴がその証。これからの人生、少なくとも心安らかに鏡を見ることは生涯叶わぬだろう。
「だったら僕が君に言えるのはこれだけだ。どうもありがとう、タナッセ」
 子どもはあまりに非力で、その非力さこそがタナッセを追いつめる。存在そのものがタナッセにとっては胸が押し潰されそうな程に、息をするのも辛くなる程に、ただただたまらなく苦痛だ。
 だが、今のタナッセには他に何もない。
 恥じることなく己のものだと言えるものなど、何も。
 全ての未来も可能性も自ら閉ざし終わらせ捨て去って、残ったものは痛みだけ。それさえ失ってしまったら、タナッセにはもう何もない。
「……矜持というものがないのか、お前には。怨敵に尻尾を振って拾う生がそんなにも惜しいか」
「不快に思ったならいつでもやめてくれていいよ。全部、君次第。第一君のことはそんなに恨んじゃいない。僕も君も人生賭けたとびきり大きな博打に打って出て結果こうなったってだけだ。敗者が勝者に従うのは当然の理だろ」
 全てを奪われた子どもは恐ろしく透き通った瞳でタナッセを見つめた。空気や道具を見るように。自分自身をも空気や道具のように見做した言葉を淡々と紡ぎながら。
 ひたすら透徹した、受容。そこには理解も温情もない。なのに、まるで。他に何もなさ過ぎて、まるで。
 ふっと、タナッセは口元を歪めて笑った。無様の上塗りでしかないと分かっていながら、洩れ出る皮肉を抑えられない。
「勝者、か。ああ確かに。勝利は称えられるべきものだ。だが寝たきりのお前にも知れているだろう。この城で私を蔑まぬ者など最早一人たりともいないだろうさ」
 それは、血を分けた身内すら例外ではなく。
 ぎらついた目を、子どもは見返す。
「まあ頑張ってよ。君の矜持が僕の矜持だ、タナッセ・ランテ=ヨアマキス」
 他に何もなさ過ぎて、まるで。
 ───まるで赦されているようだ、などと。
 そんな考えは了見違いも甚だしい自己満足だ。きっと。
 おもむろに差し出した手を見て子どもが不思議そうな顔をした。これ見よがしにため息をついて、言う。
「分からんのか? 察しの悪い奴だ。浮ついた言葉なぞに意味はないのだろう。この私に服従するという正気の沙汰とも思えん戯言を本気で言っているのなら、誓え」
 とうに手遅れとなった今になってようやくヴァイルの気持ちを分かってやれる気がした。そんな自分が嫌でたまらない。この期に及んでけして縋ってはならない相手に浅ましく手を伸ばし、あまつさえそこまで膨れ上がった執着を皮相な虚勢でしか表せない自分こそが、最も憎い。
 子どもは小さく笑った。温かみはないが嘲笑でも媚びへつらう類の笑みでもない。それで十分だった。
 掠め取った神の業の代償は、人としての全て。
 それでも苛む痛みは、この子どもだけは、タナッセのものだ。タナッセだけのものだ。
 突きつけられた手を押し抱くようにして、子どもが恭しく甲に口づける。
 その手と唇の変わらぬ冷たさを、きっと忘れることはないだろうと思った。


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ホイミンキッスバレたあたり。
電波って突然くるから恐ろしいね!

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現在「冠を持つ神の手」にだだはまり。
二次創作したり人様の二次創作で萌えたぎったり。
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